2025年04月13日
本文:使徒の働き(使徒言行録)25章1節〜27節
ローマ総督フェストゥスが着任して三日後、彼は早速エルサレムへ赴きました。カイサリアからおよそ120kmの道のりを急いだのは、ユダヤ人社会の中心であるこの町を無視できなかったからです。
ところが、総督を迎えた祭司長とユダヤ人の指導者たちが真っ先に願い出たのは、二年前からカイサリアのヘロデ宮殿に拘束されているパウロをエルサレムへ移送し、そこで裁いてほしいということでした。真の目的は移送
途中でパウロを暗殺することにありましたが、フェストゥスは「告発があるならカイサリアで正式に訴えなさい」と答え、ローマ法の手続きを崩しませんでした。
パウロが手紙「ローマ人への手紙」で語ったとおり、「上に立つ権威はすべて神によって立てられている」(ロマ13:1)という原則がここでも働いています。フェストゥスは新任総督という立場でも、法の公正さを優先させたのです。
数日後、フェストゥスはカイサリアで法廷を開き、ユダヤ人たちは神殿冒瀆・反乱扇動などの罪状を列挙しました。しかし具体的な証拠は一つも示せません。パウロは落ち着いて反論し、
「私はユダヤの律法にも神殿にも皇帝にもいかなる罪も犯しておりません」
と無実を主張しました。
それでもユダヤ側の顔を立てたい総督は、パウロに向かい「エルサレムで改めて裁判を受ける気はないか」と打診します。ここでパウロは毅然として答えます。
「私はローマ皇帝の法廷の前に立っています。ここが私の裁かれるべき場所です。もし私が死に値することをしているなら死を逃れようとはしません。しかし、彼らの無根拠な訴えで引き渡されることはできません。私はカエサルに上訴します。」
ローマ市民に認められた最終上訴権を行使した瞬間でした。フェストゥスは評議のうえ、公式に宣言します。
「あなたはカエサルに上訴した。カエサルのもとへ行くことになる。」
こうしてパウロは、主イエスから与えられた「あなたはローマでもわたしのことを証しする」(23:11)の約束どおり、皇帝ネロの首都へ向かう道を確定させました。
13〜22節:数日のうちに、ヘロデ・アグリッパ2世とその妹ベルニケがカイサリアを訪れ、新任総督フェストゥスを表敬しました。歓談の中でフェストゥスは、ユダヤ人が訴える囚人パウロについて相談します。
「彼らの訴えは、私の想像した政治的罪ではなく、
“死んだイエスが生きている”という宗教論争なのです。」
アグリッパはこの話に興味を示し、「その人の話を直接聞きたい」と申し出ました。フェストゥスは即座に了承し、翌日の審問を決定します。ここまでで、パウロは五度目の弁明の機会を与えられることになりました。神は聖霊によって、何度もパウロに証言させておられるのです。
23〜27節:翌日、アグリッパとベルニケは大いなる威光を帯びて入場し、将校や町の有力者も列席しました。これは権威を示す場であると同時に、福音が最高位の人々に届くための舞台でもあります。パウロは鎖につながれつつも堂々と立ちました。
フェストゥスは開会の挨拶でこう述べます。
「諸君の前にいるこの男に、私は死に値する罪を見いだせません。
しかし彼はカイザルに上訴したので、
送致するにあたり、公訴理由を書き表す必要があります。」
ローマ法では、上訴状に具体的な罪状が記されていなければ受理されません。フェストゥスはアグリッパの助言を得て、その要点をまとめる意図でこの公聴会を開いたのです。
こうしてパウロは、
フェストゥスの法廷(1-12節)
アグリッパ王の公聴会(13-27節)
という二段階を経て、ローマ皇帝ネロの法廷へ送致されることが確定しました。ユダヤ人の陰謀も、ローマ総督の逡巡も、すべては「ローマでもわたしを証しする」という主の約束を実現する手段でした。
人間の策略や宗教的憎しみが渦巻く中でも、神は公正な権威を通してご自身の計画を進められます。 私たちも、歴史を動かす神の主権を信頼し、自分に与えられた場で福音を証しし続けたいと思います。